初心者でも分かる事業的規模「5棟10室」基準とは?メリットも解説

「事業的規模って?」「5棟10室って?」

よく耳にするけど、じつはよく分からないという方は多いのではないでしょうか。

税金や経営に関する知識が不十分なために、節税のチャンスを逃してしまっている人も多いのが現実です。

この記事では、「事業的規模『5棟10室』」の基準とは何か、そのメリットやデメリットを詳しく解説します。

この記事を読み終えていただければ、事業的規模で得られる節税効果や、そのための具体的なステップが明確になります。

節税メリットを逃さないように、ぜひ最後までお読みください!

執筆者:古林国博
古林 不動産鑑定士・税理士・公認会計士事務所 代表
不動産オーナー様が抱える「節税・相続・不動産経営」などのお悩みをまるごと解決へと導くお手伝いを行っています。
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1. 事業的規模「5棟10室」基準とは?

賃貸経営を考える際、「事業的規模」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。

特に「5棟10室」という基準は、税務上の特典が受けられるかどうかの重要な基準です。

この章では、「事業的規模」とは何か、そしてその判断基準である「5棟10室」について、初心者にも分かりやすく解説します。

1-1. 事業的規模とは?

事業的規模とは、「個人の賃貸経営が事業と言える程度の規模であること」を言います。

賃貸経営が事業的規模と判断されれば、所得税の計算など、さまざまな特典を受けることができます。

事業的規模と判断されれば特典を受けられて、事業的規模ではないと判断されれば特典を受けられないわけですから、その判断基準はとても重要です。

しかし、この判断基準は「社会通念上」「実質的に判断する」と非常にあいまいなものになっています。

そこで、誰でも簡単に判断しやすいように「5棟10室」基準という形式的な基準が設けられているのです。

No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。

ただし、建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。

(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

実質的に判断する基準は、過去の裁判の判決事例などで示されています。

非常に難しい内容なので、別の記事で解説します。

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1-2. 「5棟10室」基準とは?

「事業的規模」を判断するために使われる形式的な基準が、「5棟10室」基準です。

この基準に以下のような内容になっています。

5棟基準
1戸建てやアパートの棟数が合計で5棟以上ある場合を指します。

10室基準
賃貸用の部屋数が合計で10室以上ある場合を指します。

  • どちらか一方を満たしていれば、事業的規模と認められます。
  • たとえば、1棟に10室あるアパート1棟だけでも基準を満たしますし、賃貸用の戸建住宅が5棟ある場合も基準を満たします。

「事業的規模」かどうかは、本来ならその賃貸経営の実態をみて判断することとされています。

とはいえ、「ここまでは事業的規模で、ここからは事業的規模じゃない」と線引きをするのはなかなか難しい作業です。

これでは判断基準があいまいで線引きが難しいので、「5棟10室」基準という誰でも簡単に判断できる基準が設けられているのです。

つまり、形式的に「5棟10室」基準を満たせば、「事業的規模として取り扱っていいですよ」とされているわけです。

じゃあ、「5棟10室」基準を少しでも満たさなければ、例えば、4棟、9室の場合は直ちに「事業的規模ではない」と判断されるのかというと、決してそうでもありません。

この形式基準には「おおむね」5棟10室となっているので、5棟10室は絶対的な基準ではないのです。

また、本来なら実質的に判断することとされているので、形式的な「5棟10室」基準を満たさなくても「事業的規模」と判断される場合もあります。

この辺は非常に難しい判断になりますので、別の記事で紹介します。

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いずれにしても、「5棟10室」という基準は、賃貸経営が事業的規模として認められるかどうか(特典を受けられるかどうか)を判断する重要な基準なのです。

1-3. 駐車場・貸地・共有などの基準は?

「5棟10室」基準は、「建物5棟」か「部屋10室」のいずれかを満たせば事業的規模と判断される基準です。

つまり、「建物5棟」と「部屋10室」は同等と考えている基準なので、「建物1棟」と「部屋2室」は同等ということになります。

ここで、次のような疑問が出てきます。

①「うちは駐車場を経営してるけどどうなるんだろう?」


②「土地を貸してるんだけど?」


③「兄弟で共有名義のアパートがあるんだけど?」


④「貸家やアパートや駐車場などを複数経営しているんだけど?」

①駐車場

「駐車場5台」と「部屋1室」が同等とされています。

つまり、「駐車場5台=部屋1室」です。

駐車場だけで事業的規模と判断されるためには、駐車場50台(=部屋10室)が必要になります。

②土地の貸付(貸地)

「貸地5か所」と「部屋1室」が同等とされています。

つまり、「貸地5か所=部屋1室」です。

貸地だけで事業的規模と判断されるためには、貸地50か所(=部屋10室)が必要になります。

③共有名義

賃貸物件が共有名義の場合、持分割合を考える必要はありません。

それぞれの共有者が共有名義の賃貸物件全体を単独で所有していると考えて問題ありません。

例えば、兄弟で共有持分(1/2)の14室の賃貸アパートを所有している場合、

「1/2 × 14室 = 7室」とする必要はありません。

兄弟どちらも14室所有しているとして、兄弟どちらも事業的規模と判断されます

④複数種類の賃貸経営の場合

複数種類の賃貸経営の場合には、それぞれを「室」に換算して「10室」以上かどうかで判断すると良いでしょう。

「部屋2室」=「建物1棟」=「駐車場10台」=「貸地10か所」

例えば、貸家1棟、アパート(4室)、駐車場10台、貸地10か所を経営している場合をみてみると、

「貸家1棟」=「部屋2室」、「駐車場10台」=「部屋2室」、「貸地10か所」=「部屋2室」なので、

アパートの4室と合計すると、10室(=2室+2室+2室+4室)となります。

「10室」基準を満たすので、事業的規模と判断されます。

2. 「5棟10室」基準を満たして事業的規模となるメリット

事業的規模で賃貸経営を行うと、税金の計算など、多くのメリットを享受できます。

この章では、「5棟10室」基準を満たして事業的規模となった場合に得られる具体的なメリットを分かりやすく解説します。

2-1. 青色申告で65万円の控除が受けられる

不動産所得から65万円を差し引いて税金の計算が出来るので、税金の節税になります。

青色申告とは?
青色申告は、税務署に事前申請することで、特定の税務上の特典を受けられる制度です。
事業的規模を満たすことで、65万円の青色申告特別控除を受けることが可能です。
事業的規模を満たさない場合には、青色申告でも10万円の特別控除しか利用することができません。

No.2070 青色申告制度

65万円控除の適用条件

  • 正規の複式簿記で帳簿を作成し、貸借対照表や損益計算書を添付して確定申告を行うこと。
  • 電子帳簿保存か電子申告を行っていること。

いずれも行っていない場合には、控除額は55万円になります。

No.2072 青色申告特別控除

節税効果の具体例

具体的にどれくらい節税になるのか、所得が500万円の場合で考えてみます。

・所得税が安くなる

以下の「所得税の速算表」を当てはめると、簡単に所得税を計算できます。

No.2260 所得税の税率

この「速算表」の計算式は「課税される所得金額×税率-控除額」です。

上記の「所得税の速算表」の計算式に当てはめて計算します。

所得500万円とすると、税率は20%、控除額427,500円です。

青色申告特別控除所得税の計算(基礎控除48万円)
なし(500万円-48万円)×20%-427,500円=476,500円
10万円(事業的規模でない)(500万円-10万円-48万円)×20%-427,500円=456,500円
65万円(事業的規模)(500万円-65万円-48万円)×20%-427,500円=346,500円

控除なしの場合と比べて、

特別控除10万円を控除すると、所得税を2万円(476,500円-456,500円)節税できます。

特別控除65万円を控除すると、所得税を13万円(476,500円-346,500円)節税できます。

実際に所得税額を計算してみると上記のようになりますが、節税額は「65万円(特別控除)×20%(税率)=13万円」と算出することもできます。

仮に、所得が950万円の場合には、控除額65万円に速算表の税率33%を掛けて、節税額は「65万円×33%(税率)=214,500円」と算出されます。

現在の所得金額に見合った税率を速算表から求めれば、 「65万円×税率」で節税効果を算出できます

・住民税が安くなる

住民税は「所得割=(所得-控除)×税率(一律10%)」と「均等割等」の合計になります。

所得税の基礎控除は48万円、住民税の基礎控除は43万円です。

青色申告特別控除住民税の計算(基礎控除43万円、均等割等5,000円)
なし(500万円-43万円)×10%+5,000円=462,000円
10万円(事業的規模でない)(500万円-10万円-43万円)×10%+5,000円=452,000円
65万円(事業的規模)(500万円-65万円-43万円)×10%+5,000円=397,000円

控除なしの場合と比べて、

特別控除10万円を控除すると、所得税を1万円(462,000円-452,000円)節税できます。

特別控除65万円を控除すると、所得税を6.5万円(462,000円-397,000円)節税できます。

実際に所得税額を計算してみると上記のようになりますが、節税額は「65万円(特別控除)×10%(税率)=6.5万円」と算出することもできます

・国民健康保険料が安くなる

国民健康保険料を計算する場合、住民税と同様に所得割と均等割を用いて計算します。

国民健康保険料は地方自治体によって異なります。

仮に所得割率を10%と仮定すると、節約額は「65万円(特別控除)×10%(税率)=6.5万円」と算出することができます。

まとめ(所得500万円の場合)

 事業的規模
(5棟10室以上)
事業的規模でない
(5棟10室未満)
青色申告特別控除55万円
65万円(電子帳簿保存か電子申告の場合)
10万円
記帳方法正規の複式簿記簡易的な単式簿記でOK
所得税の節税効果13万円2万円
住民税の節税効果6.5万円1万円
国民健康保険料の節約効果6.5万円1万円
合計節約額26万円4万円

2-2. 家族に給料を支払って節税できる

家族に給料を支払うことによって、一人に集中していた収入を分散させて税率を下げることができます。

税率が下がれば、税金が減るので節税になります。

次図のように、個人の所得税率は所得が大きくなるほど税率が高くなるようになっているためです。

所得税と住民税の合計税率表

具体例:夫の所得が1,000万円として考えてみます。

夫一人に所得が集中していると、所得税と住民税の合計税率は43%です。

所得税は速算表に当てはめて計算すると、

所得税:(1,000万円-65万円-48万円)×33%-1,536,000円=1,391,100円

住民税:(1,000万円-65万円-43万円)×10%+5,000円=897,000円

合 計:1,391,100円+897,000円=2,288,100円

では、右図のように、夫が妻と子に給料を月10万円支払った場合を考えます。

夫の所得:1,000万円-120万円(妻の給料)-120万円(子の給料)=760万円

妻の所得:10万円×12か月=120万円

この所得:10万円×12か月=120万円

そうすると、の所得税と住民税の合計税率は33%になります。

妻と子の所得税と住民税の合計税率は15%です。

  • 夫の税金計算

所得税:(760万円-65万円-48万円)×23%-636,000円=852,100円

住民税:(760万円-65万円-43万円)×10%+5,000円=657,000円

合 計:852,100円+657,000円=1,509,100円

  • 妻と子の税金計算

所得税:(120万円-65万円-48万円)×5%=3,500円

住民税:(120万円-65万円-43万円)×10%+5,000円=17,000円

合 計:(3,500円+17,000円)×2人分=41,000円

  • 家族全員の税金合計

1,509,100円(夫)+41,000円(妻と子)=1,550,100円

  • 「所得が夫一人に集中している場合」と「家族に給料を支払って分散した場合」の差額

2,288,100円-1,550,100円=738,000円

節税効果になります。

青色専従者給与とは?
青色申告をしている個人事業主が、家族を事業の手伝いに専従させ、その対価として給与を支払うことができる制度です。
この給与は、必要な手続きをして税務署に届け出れば、事業の経費として認められ、節税につながります。

【対象者】
生計を一にする親族(配偶者や子どもなど)。
原則、年6ヶ月以上その事業に専従している必要があります。

【条件】
青色申告を行っていること。
税務署に「青色専従者給与に関する届出書」を提出していること。
支払う給与額が妥当であること(過大な金額は認められません)。

No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除

ただし、家族に給与を支払う場合には、配偶者控除や扶養控除を受けられなくなります。

2-3. その他のメリット

  • 滞納で回収できない賃料を経費にできる

賃貸経営では、入居者による賃料滞納が発生することがあります。

滞納された賃料が回収できなくなった場合の取り扱いは以下のようになります。

事業的規模 (5棟10室以上)回収不能になった年の必要経費に計上できます。
事業的規模でない (5棟10室未満)賃料収入に計上した年分までさかのぼって、所得計算をやり直す必要があり、たいへん面倒です。
  • 建物の取り壊しなどの損失をすべて経費にできる

賃貸アパートなどを取り壊したときには、大きな損失が発生する場合があります。

取り壊し損失1,000万円、不動産所得500万円、給与所得400万円として考えてみます。

事業的規模 (5棟10室以上)損失の全額を経費に計上できます。
不動産所得が赤字になった場合は他の所得と損益通算ができます。
所得金額が赤字になる場合、青色申告書は3年間赤字を繰り越すことができます。
不動産所得
500万円-1,000万円=▲500万円
給与所得
400万円-500万円(▲500万円)=▲100万円
▲100万円は、来年以降3年の所得から差し引くことができる。
事業的規模でない (5棟10室未満)  損失は不動産所得の金額までしか経費にできません。
不動産所得
500万円-500万円=0円
▲500万円(赤字の500万円)は、損しっぱなしになってしまう。
給与所得からも、来年以降の所得からも差し引くことができない。

2-4. メリットを受けるためにすること

これらのメリットは、5棟10室基準を満たして事業的規模になるだけでは受けられません。

税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

「所得税の青色申告承認申請書」は提出時期が決まっており、青色申告をしようとする年の3月15日までに提出する必要があります。

詳細は「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」をご参照ください。

「「5棟10室」基準を満たして事業的規模になりました。」と報告や手続きをする必要はありません。

「所得税の青色申告承認申請書」を提出したあとは、青色申告特別控除などのメリットを受けられるように、複式簿記で帳簿を作る必要があります。

3. 「5棟10室」基準を満たして事業的規模となるデメリット

「5棟10室」基準を満たして事業的規模を達成することで得られる多くのメリットがある一方で、新たに発生するデメリットや負担も存在します。

この章では、「5棟10室」基準を満たした場合に考慮すべきデメリットについて詳しく解説します。

3-1. 新たに事業税がかかる

事業税は、個人事業主が一定の規模で事業活動を行った際に課される地方税の一つで、納付先は各都道府県です。

「5棟10室」基準を満たし、賃貸経営が事業的規模として認められると、ほぼ事業税の対象になると考えて良いでしょう。

ただし、都道府県によって事業税の対象となる基準に若干の違いがあるので、各都道府県の基準を確認するようにしましょう。

(所得 - 各種控除額)× 5%(税率) = 事業税
・青色申告特別控除65万円は適用されません。
・事業主控除は290万円(所得税の基礎控除48万円にあたるもの)
・理解しやすいように簡略化しています。

所得500万円の場合を考えてみます。
事業税=(500万円-290万円)×5%=10.5万円

事業的規模になることで、所得税:13万円、住民税:6.5万円、国民健康保険料:約6.5万円、合計で26万円の節約効果があった一方で、事業税10.5万円が新たにかかることになります。

3-2. 配偶者控除や扶養控除が受けられない

家族に給料を支払う場合には、配偶者控除や扶養控除は受けられなくなります。

とはいえ、家族に給料を支払う場合の節税効果のほうが大きい場合が多いでしょう。

No.1191 配偶者控除

No.1180 扶養控除

3-3. 面倒な帳簿を作る必要がある

「5棟10室」基準を満たし、青色申告特別控除(65万円)を適用するためには、複式簿記で帳簿を作成し、貸借対照表や損益計算書を作成する必要があります。

このような帳簿作成は面倒で簿記の知識も必要なので、税理士に依頼する場合も多いでしょう。

その場合には新たに税理士費用がかかりますが、賃貸経営や節税などのアドバイスも受けられるでしょう。

4. まとめ

  • 事業的規模とは「個人の賃貸経営が事業と言える程度の規模であること」
  • 事業的規模になると、所得税の計算など、さまざまな特典を受けられる
  • 「5棟10室」基準は「事業的規模」を判断するための形式的な基準
  • 事業的規模となる主なメリットは節税
  • 節税のメリットを受けるために「所得税の青色申告承認申請書」を提出する
  • 事業的規模となる主なデメリットは新たな税金「事業税」がかかること
  • 賃貸経営の効率化のために税理士などの専門家を上手に活用する

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