

執筆者:古林国博 詳しいプロフィール
古林 不動産鑑定士・税理士・公認会計士事務所 代表
不動産オーナー様が抱える「節税・相続・不動産経営」などのお悩みをまるごと解決へと導くお手伝いを行っています。
飛込み営業で鍛えられた「親しみやすさ」と不動産と相続に特化した「高い専門性」でサポートいたします。
「相続税で数千万円も払うことになるなんて…」不動産を多くお持ちの地主の方ほど、相続が現実味を帯びてくると、納税額の大きさに驚かれることが少なくありません。実際、「節税の準備が間に合わず、泣く泣く土地を手放した」というケースもあります。
また、節税ばかりに目が行きがちですが、「納税資金が足りない」という現実的な問題にも向き合う必要もあります。
そこで本記事では、地主の方向けに、実務で使える相続税対策30選をご紹介します。
当事務所がサポートして3000万円節税に成功した事例など、現場のノウハウを踏まえた対策をできるだけ網羅しました。
本記事では、以下の4章構成で、相続税対策を体系的に整理しています。
- 「絶対にやるべき準備」
- 「今すぐできる対策10選」
- 「時間をかけて検討すべき対策10選」
- 「一般的で効果の高い対策10選」
相続税対策は「節税」ばかりが注目されがちですが、「納税資金をどう確保するか」も非常に重要な視点です。各対策には「節税効果の大きさ」「納税資金の確保」の指標もつけて、実行判断の助けとなるよう工夫しました。
読み終えていただければ、ご自身のケースでは何から着手すべきか、何をすべきかが明確になるはずです。不安を放置せず、今できる一歩を踏み出すことで、大切な資産と家族の未来を守る準備が整います。ぜひ最後までご覧ください。
目次
1. 地主が相続税対策に向けてすべき準備
相続税対策は、まず「現状把握」から着手するのが鉄則です。
特に不動産を多く所有する地主の方は、自分がどんな不動産をどれだけ持っているかを正確に把握できていないケースが非常に多く見受けられます。
「何から手を付ければいいのかわからない」という声もよく耳にしますが、まずは所有不動産の一覧表を作ってみることが第一歩です。それだけで頭の中が整理され、不安も軽減されます。
現状を把握していないと、「相続税が払えなかったらどうしよう…」という漠然とした不安がつきまといます。逆に、現状を把握するだけで相続税額や対策の方向性も見えてきます。
相続はいつ起きてもおかしくありません。後回しにせず、まずはここから始めて、落ち着いて次のステップに進みましょう。
1-1. 相続財産の現状を把握する

(適宜加工してお使いください。)
相続税対策の第一歩は、現在の財産状況を正しく把握することです。
特に不動産を多く所有する地主の方の場合、相続財産の大半を不動産が占めるため、所在地や面積、利用状況、地目、固定資産税評価額などを「不動産一覧表」にまとめておくことが重要です。
この作成には、毎年4~6月頃に届く「固定資産税課税明細書」が大変役立ちます。
さらに、借地・貸家・共有名義といった評価に影響する情報や、老朽化や空室の状況、賃貸契約内容なども確認して「備考欄」に記載しておくと、活用や売却の判断に役立ちます。
加えて、預貯金、有価証券、生命保険などのその他の財産も大まかに把握しておくことが、相続税の試算には不可欠です。
まずは財産の棚卸しから始めることで、具体的な対策の方向性が見えてきます。
1-2. 相続税のシミュレーションをする
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財産の全体像を把握したら、次に行うべきは相続税の概算シミュレーションです。
まずは法定相続分で分けた場合を前提に、相続人ごとの相続税額を試算するのが基本です。
将来の納税額や分割の難易度を事前に把握できるため、相続対策の出発点として欠かせません。
不動産の評価は一般の方には難しいので、とりあえずザックリとした相続税の概算額を知りたい場合には、固定資産税課税明細書に記載されている「固定資産税評価額」を代用して入力するのも一つの方法です。
正確な評価が必要な場合や複雑な財産構成の場合は、専門家に相談することをおすすめします。
シミュレーションには、国税庁 相続税の申告要否判定コーナー(国税庁シミュレーター)を活用すれば、自分でも試算できます。
また、使い方はYouTubeのこちらの解説動画が参考になります。

1-3. 相続税対策の設計図を作る
相続税対策を計画的に進めるには、「設計図」を作ることが重要です。
設計図は、どの不動産をどうするか、どの節税策をいつ実施するか、誰に何を引き継ぐかといった方針を整理したもので、対策全体の“道しるべ”となります。
相続には税金だけでなく、財産の分け方や納税資金の確保、家族間の調整など多くの課題が伴うため、詳細な設計には専門家のサポートが不可欠です。

一方で、自分でできる準備もあります。たとえば、事前に作成した財産一覧表に備考欄を設けて、不動産ごとに「売却予定」「共有解消」「優先的に残したい」などのメモを記入することで、方針が見えやすくなります。
また、預貯金や有価証券には「納税資金に充てる」といった目的を添えておくのも有効です。
こうした整理を通じて、専門家との相談もスムーズになり、実行可能な対策を現実的に描くことができます。
設計図は、相続対策を“点”ではなく“線”で考えるための出発点です。
“点”の相続対策は「木を見て森を見ず」、極めて危険です。節税、納税資金、遺産分割…個別の対策だけを重視していると、全体のバランスを崩し、かえって大きな損をしてしまうことがあります。
相続税対策のお手伝い
「古林 不動産鑑定士・税理士・公認会計士事務所」にお任せください!
お悩み事・お困り事はお客様によって千差万別です。
当事務所は、ベルトコンベア式の大量生産ではなく、限られたお客様に質の高いオーダーメイドのサービスを提供しています。
相続税対策、不動産の評価・活用、共有名義や借地権の整理、不動産経営の改善など、複雑で専門性を要する課題もワンストップで伴走サポートいたします。
「高度な専門性」と「安心感のある親しみやすさ」を兼ね備えた当事務所だからこそできるご提案があります。まずはお気軽にお問い合わせください。
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2. 地主が真っ先にすべき相続税対策10選
相続税対策は、まず「基本の対策」から着手するのが鉄則です。
特に不動産を多く所有する地主の方は、相続税の納税額が大きくなる傾向にあります。
そのため、この章では、早期に取り組みやすく、効果が大きい10の基本対策を紹介します。

2-1. 小規模宅地等の特例を活用する
( 節税効果 ★★★★★ )

相続税を大きく節税できる代表的な制度のひとつが「小規模宅地等の特例」です。
これは、一定の要件を満たす宅地について、最大80%もの評価減が認められる制度で、自宅や賃貸用不動産などが対象になります。
たとえば、自宅の敷地(特定居住用宅地等)は、配偶者や同居親族などが相続した場合に、330㎡まで80%の評価減が適用されます。
賃貸アパートの敷地(貸付事業用宅地等)も200㎡まで50%の評価減が可能です。
この特例は適用できるかどうかで相続税額が大きく変わるため、制度の内容を早めに確認し、誰がどの不動産を相続するかの方針を設計段階で検討しておくことが重要です。
なお、要件を満たさないと適用されないため、「同居の有無」や「被相続人の居住実態」などには注意が必要です。
適用の可否判断や事前対策には専門家の確認が不可欠ですが、対象となり得る土地をあらかじめ把握しておくことが、実務上の第一歩となります。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
2-2. 小規模企業共済に加入する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

小規模企業共済は、国が運営する「経営者のための退職金制度」です。
地主の方や不動産賃貸業を営む個人事業主も加入でき、所得税と相続税の両方で節税効果が期待できる制度として注目されています。
毎月の掛金(1,000円~7万円)は全額が所得控除の対象となり、毎年の所得税・住民税を軽減することができます。
また、共済金を将来一括で受け取る場合は退職所得扱いとなるため、税負担を抑えた資金確保が可能です。
さらに、加入者が死亡した際に支払われる共済金は「死亡退職金」として扱われ、法定相続人1人あたり500万円まで相続税が非課税となる特典もあります。納税資金の確保と節税を同時にかなえる手段として、地主の方にとって非常に有効です。
加入には「青色申告を行っている」「事業的規模の不動産賃貸を営んでいる」などの要件がありますが、多くの地主の方が該当します。将来の備えとして、早めの検討をおすすめします。
| ■ シミュレーション例:個人の青色申告地主(モデルケース) | |
| 年間掛金 | 84万円(月7万円) |
| 所得税・住民税軽減効果 | 約36万円/年(税率43%の場合を想定) |
| 掛金通算(15年) | 約1,260万円 |
| 解約共済金(15年後) | 約1,300万円程度(実績利率を含む想定) |
| 相続税 非課税枠 | 500万円 × 相続人3人(想定) = 1,500万円(退職金扱い) |
| ■ 注意点(加入前に確認すべきポイント) | |
| ・積立期間が6か月未満で、廃業した場合や死亡した場合などは、掛け捨てとなります。 ・積立期間が12か月未満で、上記以外の理由で、共済金の請求や解約を行う場合は掛け捨てとなります。 ・積立期間が240か月(20年)未満で任意解約した場合は、 掛金合計額を下回り、元本割れとなります。 | |
【実務上のワンポイントアドバイス】
実務では、所得が非常に多い地主さんであっても、小規模企業共済に加入されていないケースをたまに見かけます。
顧問税理士がついている方であっても、小規模企業共済の存在自体をご存じない場合や、「不動産賃貸業では加入できない」といった誤解から、制度を活用していないケースが見受けられます。
これは非常にもったいない状況です。小規模企業共済は、節税と納税資金の確保の両面で大きな効果を発揮する制度であり、特に加入期間が長いほど節税効果や受け取れる共済金額も大きくなるため、早期の加入が重要です。
また、将来の相続税を心配されているご家族の立場からは、親御さんが小規模企業共済に加入しているかどうかを一度確認することを強くおすすめします。
相続税対策としても非常に有効な制度であり、いざというときに備えるためにも、今のうちからしっかりと準備しておくことが大切です。
2-3. 土地の活用方法を工夫する
( 節税効果 ★★★ )

土地の使い方を少し工夫するだけで、相続税評価額を大幅に抑えることができる場合があります。
たとえば、賃貸アパートに隣接する月極駐車場を入居者専用の駐車場に変更することで、アパート敷地と一体として評価され、全体を貸家建付地(約20%評価減)とすることが可能になります。
また、面積や形状によっては「地積規模の大きな宅地」として、さらに評価減(約20~40%評価減)が認められるケースもあります。
成功事例① 空き家を取り壊して、相続税も固定資産税も節税できた事例

自宅の隣にあった空き家を取り壊し、庭として整備したことで、自宅敷地と一体として利用され、小規模宅地等の特例(330㎡まで80%評価減)が適用された成功事例。
もともと火災などを心配して空き家を取り壊したいと考えていたものの、「取り壊すと固定資産税が増える」と不動産会社に言われ長年放置されていたとのこと。
しかし、当事務所のアドバイスにより、相続税と固定資産税の双方を抑えながら安全性も確保できる形で問題を解決することができました。自宅と一体利用することで、住宅用地の特例を受けられ固定資産税の節税になります。
このように土地の境界をどう使うか、どの用途として整えるかといった「ちょっとした工夫」が、実は大きな節税につながることもあるのです。 評価の仕組みを理解し、実情に合わせて最適な活用方法を検討しましょう。
成功事例② 役所の課税ミス、払い過ぎた固定資産税20年分1,200万円を取り戻した事例
賃貸マンション隣の駐車場について、マンションの入居者専用の駐車場であるにもかかわらず、役所は誤って月極駐車場として課税していました。
本来なら駐車場も一体として住宅用地の特例を受けられたところ、駐車場部分は高い固定資産税が課されていたため、何十年も固定資産税を払い過ぎていました。
何十年も、役所も地主さんも顧問税理士も気付かないまま、固定資産税を過払いし続けていたわけです。
当事務所が相続税申告でお手伝いした際に、課税ミスを発見し、役所に申し出て、固定資産税20年分と延滞金を合わせて1,200万円を取り戻すことに成功しました。
取り戻すために遡れるのは20年が最大です。20年超は払い損となってしまいます。本事例も十数年分は払い損になってしまいました。早めに課税ミスがないか確認することをお勧めします。
2-4. 賃料を改定する
( 節税効果 ★★★ )

賃貸不動産の相続税評価を適正に下げるためには、実際に相場の賃料で賃貸していることが前提となります。
同族会社や親族に形式的(タダで)に貸している場合、「使用貸借」とみなされ、貸家建付地(約20%評価減)や貸家(30%評価減)としての評価減が認められないことになります。
相続の発生が近いと見込まれる場合には、相場の賃料を収受する形に改めておくことで、評価減を適用できる可能性が高まり、結果として相続税の節税に繋がります。
ただしその際、賃料収入が増えることで相続財産が増える点や、所得税・住民税の負担が増える点にも注意が必要です。
特に所得税率が高い場合は、相続税の節税効果よりも年間の課税負担が上回ることもあります。
したがって、賃料の見直しはタイミングとバランスが重要です。
専門家と相談しながら、地域の相場を参考に、税負担と節税効果を総合的に検討することをお勧めします。
2-5. 将来の費用を前倒しで生前に支払う
( 節税効果 ★★★ )

将来的に発生することが確実な支出については、相続前に前倒しで支払うことで相続財産を減らし、結果的に相続税の節税につなげることができます。
たとえば、境界確定測量、建物のリフォーム、バリアフリー改修、長期修繕費、空室対策、相続対策や不動産活用に関するコンサルティング費用などが挙げられます。
いずれも「いずれ必要になる支出」であるため、計画的に前倒しすれば節税と実務の両面に効果があります。
特に、相続財産が多くなりがちな地主の方にとって、こうした支出による財産の圧縮は現実的かつ有効な手段です。
ただし、必要性や効果が不明確な支出や、目的が曖昧なまま実行した支出は、単なる無駄遣いになってしまうリスクがあります。
節税ありきで不要な支出を増やしてしまうと、かえって財産を減らす結果にもなりかねません。
支出の時期と内容をよく検討し、「本当に必要な支出か?」という視点を常に持ちながら判断することが大切です。
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2-6. 不要な不動産は売却する
( 納税資金 ★★★★★ )

相続税対策では、不動産を「残すべきもの」と「処分すべきもの」に分けて整理することが重要です。
特に、収益性が乏しい、遠方にある、将来使う予定がないなどの理由で管理が難しい不動産は、思い切って生前に売却することが有効な対策になります。
こうした不動産は所有しているだけで固定資産税が毎年かかり、草刈りや修繕などの管理費用も発生します。
さらに、空き家になっている場合は倒壊や火災のリスク、近隣トラブルの原因となることもあり、放置すればするほど将来的な負担が大きくなります。
売却によって現金化すれば、納税資金や生活資金に充てられますし、相続人間での分割もしやすくなります。
また、売却益が出る場合は譲渡所得税がかかりますが、早めに動けば特例の活用なども検討できます。
将来の相続を見据え、「使わない・管理できない・引き継がせにくい」不動産は、整理することも大切な選択肢です。
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2-7. 必要な土地を買い取る
( 節税効果 ★★ )

上図のような、自治体が所有する道路(通路)部分の周囲をすべて自分の所有地が囲んでいる場合、その自治体から道路部分を払い下げてもらえる可能性があります。
この道路部分を買い取ることができれば、土地の一体性が高まり、将来的な利用価値や利便性が向上する可能性があります。
こうしたケースでは、将来の売却や有効活用を見据え、生前のうちに買い取っておくことも検討に値します。道路部分の取得は、現金などの金融資産を不動産へと組み替える行為であり、土地の評価方法によっては必ずしも節税効果が得られない場合もありますが、一般的には節税につながるケースが多いといえます。
さらに、生前に取得した土地も含めて土地全体を売却したり有効活用したりすることも可能であり、その場合には節税効果に加えて、将来の相続税納税資金の確保にも有効な手段となります。

自分の所有地の間に他人の土地が挟まっている場合、その土地を買い取ることができれば、土地の一体化が図られ、利用効率や価値が大きく向上する可能性があります。
例えば、分断されていた敷地が一体化することで、建物の建築計画や敷地のレイアウトに自由度が増し、駐車スペースや通路の確保、建ぺい率・容積率の活用にも有利になる場合があります。
このような土地の取得は、現金等の金融資産を不動産に組み替えることを意味し、土地の評価方法によっては節税効果が期待できます。さらに、生前のうちに取得した土地を売却または有効利用することで、節税だけでなく、将来の納税資金の確保にもつながる点で、前述の「自治体所有の道路部分の払い下げ」と同様の効果が見込めます。
2-8. 使い道のない土地を寄付する
( 節税効果 ★★ )

上図のように、道路と他人の土地の間に極めて細長い土地を所有しているケースがあります。過去の相続などをきっかけに、このような利用価値の乏しい土地が生じることは決して珍しくありません。
本来であれば、隣地所有者に買い取ってもらうのが理想ですが、現実的には関係が悪化している場合も多く、交渉が成立しないことも少なくありません。それでも、都心部など路線価の高い地域では、実際の利用価値が乏しくても評価額が数百万円から数千万円に達することもあり、相続税の負担が大きくなる要因となります。
日本では所有権へのこだわりが強い傾向がありますが、意味のない保有を続けるよりも、手放す選択肢を検討すべき場合もあります。特に、このような土地は道路拡幅などに活用できるため、自治体にとっても価値があり、引き取ってもらえる可能性があります。
固定資産税を払い続けるだけでなく、相続時にも余計な税負担を生むことを考えれば、思い切って自治体へ寄付することは有効な選択肢です。これにより節税効果が得られるだけでなく、道路の拡幅や公共施設(例:ごみ置き場)として地域に貢献することにもつながります。
2-9. 役所調査で不動産の状態を再確認する
( 節税効果 ★★ )

上図のように、道路に接していない土地は「無道路地」と呼ばれ、原則として建物を建てることができません。さらに、接続している通路(赤道)が極めて狭い場合、駐車場としての利用も難しくなります。
このような土地は、所有者本人だけでなく、日頃付き合いのある不動産会社からも「活用困難」と判断され、放置されてしまうケースもあります。
しかし、役所でヒアリングしてみると、通路(赤道)部分が道路として認定されている場合もあります。情報が更新されていなかったり、十分な調査が行われていないまま「利用価値がない」と思い込まれているケースも少なくありません。
もし道路認定を受けられれば、その土地の利用価値は大きく向上し、売却や有効活用の選択肢が広がります。
まずは役所での丁寧なヒアリングから始め、潜在的な価値を再確認しためたうえで活用方法を検討してみましょう。
2-10. 不動産経営を改善する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

相続税対策では、不動産を「所有する」ことだけでなく、「どう経営するか」も重要なポイントです。
家賃の見直し、空室対策、修繕・リフォームによる物件価値の維持・向上など、不動産経営の改善によって、収益性を高め、資産価値を安定させることができます。
収益性のある賃貸物件は、相続後の納税資金の源泉として活用できるうえ、適正な賃料を受け取っていれば貸家や貸家建付地として評価減の適用も期待できます。
また、空室が多いまま放置されていると収益は生まれず、物件の老朽化も進み、かえって相続後に“負動産”になるリスクもあります。
経営状態を放置することは、節税の機会を逃すだけでなく、相続人にとっても大きな負担となりかねません。
したがって、収支の見直しや定期的な管理体制の整備、将来的な建替えや売却も視野に入れた「攻めの経営」が必要です。
専門家のアドバイスも取り入れながら、不動産経営の最適化に取り組むことが、効果的な相続税対策につながります。
成功事例 賃料の値上げをサポート、収益も売却金額も大幅アップに成功した事例

ある地主様が所有する賃貸物件について、長年依頼していた管理会社の運営状況を精査したところ、入居者の入れ替え時に賃料が適正に見直されておらず、周辺相場よりも低い賃料で貸し出されていることが判明しました。
賃貸物件は、利回り(収益性)を基準に売却価格が算定されるため、賃料が低ければ売却価格も低くなります。そこで、当事務所で周辺市場の賃料相場を分析し、入居者募集条件や賃貸借契約の見直しを提案。段階的に賃料を適正水準まで引き上げることに成功しました。
その結果、物件の収益性が向上し、相続発生後の売却時には、当初想定よりも大幅に高い価格で売却が成立。賃料の適正化が売却価格に直結することを実証した事例となりました。
このケースは、「賃料の見直し」が資産価値の最大化に欠かせない重要な要素であることを示しています。
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地主が真っ先にすべき相続税対策10選(要点まとめ)
| 項目 | 要点 |
| 2-1.小規模宅地等の特例を活用する | 特例の適用で最大80%評価減が可能。早めに適用条件と相続対象者を検討しておく。 |
| 2-2.小規模企業共済に加入する | 掛金は所得控除対象。死亡時の共済金は退職金扱いで相続税の非課税枠あり。地主も加入可能。 |
| 2-3.土地の活用方法を工夫する | 隣接地の一体化や用途転換で評価減を狙う。空き家を庭にして特例適用に成功した事例も。 |
| 2-4.賃料を改定する | 親族や同族会社への低賃料は見直しを。相場賃料で貸家評価が可能に。所得税とのバランスに注意。 |
| 2-5.必要経費を前倒しで生前に支払う | 境界確定測量やリフォームなど将来必ずかかる経費を事前支出。無駄遣いにならないよう注意。 |
| 2-6.不要な不動産は売却する | 収益性が低く管理も大変な不動産は整理を検討。固定資産税・火災リスク・納税資金対策にも有効。 |
| 2-7.必要な土地を買い取る | 自治体所有の道路を買い取り、土地一体化で利便性・節税・納税資金確保に有効。 |
| 2-8.使い道のない土地を寄付する | 利用価値が乏しい土地は自治体へ寄付し、固定資産税・相続税の節税と地域貢献を実現する。 |
| 2-9.役所調査で不動産の状態を再確認する | 役所調査で活用方法を見極められれば、資産価値が大きく向上し、売却や有効活用の可能性が広がる場合がある。 |
| 2-10.不動産経営を改善する | 不動産経営の改善によって、収益性を高め、資産価値を安定させることで効果的な相続税対策につながる。 |

3. 地主がじっくり検討すべき相続税対策10選
不動産を活用した相続税対策は、評価額の引下げや納税資金の確保といった効果が期待できるため、地主の方の間でも広く知られています。しかしその一方で、実行のタイミングや内容を誤ると、節税効果が薄れたり、不動産経営として失敗するリスクもあることに注意が必要です。
実際、「節税には成功したが、空室が埋まらず経営が成り立たなかった」「管理に手が回らず家族に負担をかけた」といった例も少なくありません。節税と不動産経営はセットで成立するものであり、どちらか一方でも欠けては本末転倒です。
この章では、費用・手間・判断力を要する中長期的な対策を10項目にまとめてご紹介します。効果は大きいが慎重な検討が必要な施策として、専門家と連携しながら、無理のない形で取り組むことが成功のカギです。

3-1. 自宅を建て替える
( 節税効果 ★★★★ )

自宅の建て替えは、資産の組み換えによる相続税対策の一つとして有効です。現金で保有しているよりも、住宅という不動産に転換することで相続税評価額が下がるため、節税効果が見込めます。
親の資金で建て替えた場合でも、親が住宅ローンを組んだ場合でも同様の効果が期待できます。
たとえば、将来建て替えを検討しているのであれば、親の生前に建て替えておけば、節税・住環境の改善・老朽化対策が一度に実現できます。さらに、小規模宅地等の特例(330㎡まで80%評価減)も適用できれば、節税効果がより高まります。
ただし、自宅には親の思い入れがあることも多く、「壊して新しくすればいい」という一方的な判断は避けるべきです。建て替えを検討する際は、家族としっかり話し合い、親の気持ちを尊重しながら進めることが大切です。
節税だけでなく、快適で安心できる暮らしを実現するための一手として、自宅の建て替えを前向きに検討してみましょう。
3-2. 親族の住宅を購入する
( 節税効果 ★★★★ )

親や祖父母が自分名義で子や孫の住宅を購入し、賃料を取らずに貸す(使用貸借)ことは、相続税対策と家族支援を両立できる有効な方法です。現金で保有しているよりも、不動産に組み替えることで相続税評価額が下がり、節税につながります。
この場合、所有者は親や祖父母のままで、子や孫は無償で居住できます。将来的に相続が発生すれば、子や孫がそのままその不動産を相続する形になり、スムーズな資産承継が可能です。
まさに、“活きたお金の使い方”として、相続前に家族の暮らしを支える現実的な対策といえるでしょう。
ただし、賃料収入がないため、固定資産税や維持管理費を自己負担できるだけの資金余力が必要です
資金的な余裕がない状態で実行すると、かえって負担になることもあるので注意が必要です。
また、「1-4.賃料を改定する」でも述べたように、居住する子や孫から計画的に賃料を得るようにすれば、更なる節税につながります。
無理のない計画のもと、専門家と相談しながら慎重に検討しましょう。
3-3. 賃貸アパートを建築する
( 節税効果 ★★★★★ )

賃貸アパートやマンションの建築・購入は、地主の方の代表的な相続税対策のひとつです。
不動産は貸すことで評価が下がる仕組みがあり、建物は「貸家」として、土地は「貸家建付地」として評価されるため、現金で保有するよりも相続税評価額を大きく圧縮できます。
ただし、節税目的だけで建てた結果、空室が埋まらず不動産経営に失敗したというケースは後を絶ちません。立地、需要、管理体制、将来の収益性を十分に検討せずに実行するのはリスクが高く、節税には成功したが赤字経営に陥った、という本末転倒な結果になりかねません。
不動産経営として成り立つかどうかを冷静に見極めることが、成功のカギです。
節税効果と収益性のバランスを考え、収支シミュレーションをもとに慎重に判断しましょう。
その相続税対策に待った!地主は常に狙われている!
お客様は二次相続対策をお考えの大地主様です。
店舗の賃貸借契約が満了して付属の駐車場も遊休地となりました。
そこへ虎視眈々と狙っていた銀行とハウスメーカーから節税税対策として賃貸アパートの提案がありました。その提案書は一見バラ色の収支計画でしたが、お客様は過去にも痛い目にあっているため、プロの視点でチェックしてほしいとのご依頼を、当事務所が受けました。
大層立派な提案書です。内容もこんなに儲かるのならと引き込まれる計画です。
しかし、見る人が見れば建てる前から赤字になることが決まっている計画でした。巧妙な記載になっているので、なかなか一般の方には見抜けません。
どのように赤字になるのかはっきり数字でお示しすることでお客様に思いとどまって頂きました。
相続税対策という名目で投資採算性を無視した賃貸アパート建築が横行しています。
「節税には成功したが、不動産経営に失敗した」では意味がありません。
将来、お客様が資金繰りに行き詰まる頃には、主導した銀行やハウスメーカーは担当者が転勤してしまっていて知らぬ顔です。建築後のリカバリーには限界があります。
当事務所では、お客様の利益最大化のためにも、事前に節税効果やハウスメーカー作成の収支シミュレーションの良否、他に有効活用の方法がないかなどを、不動産鑑定評価の手法などを駆使して分析し、適切な解決策をご提案いたします。
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3-4. 都心の賃貸物件を購入する
( 節税効果 ★★★★★ )

賃貸物件の中でも、都心部の物件は相続税対策として特に有効です。
都心は路線価に比べて実勢価格が高いため、購入価格に対して相続税評価額が大きく圧縮される傾向があります。つまり、同じ投資額でも地方物件に比べて節税効果が大きいというわけです。
さらに、都心は需要が安定しており、空室リスクや価格下落リスクが相対的に小さいため、資産価値の目減りが少なく、安定した資産保有がしやすい点でも魅力です。収益性と評価額のバランスを取りながら、納税資金や資産承継にも活かせます。
一方で、都心物件は価格が高く、個人で購入するにはハードルが高いケースもあります。
その場合には、都心の不動産を複数人で共有できる「不動産小口化商品」を活用するという選択肢もあります。少額から投資可能で、相続税評価上も現物不動産と同様の取り扱いになるため、節税効果が期待できます。
資産の目減りを抑えながら節税を図るには、「都心×賃貸」という戦略が非常に有効です。
収益・流動性・評価額を総合的に見極めながら、慎重に検討しましょう。
3-5. 不動産賃貸業を法人化する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

(所有方式が最も節税効果が大きい)
不動産賃貸業を法人化することは、相続税と所得税の両方に対して有効な節税手段です。
個人で賃貸収入を得る場合、収入が増えるほど高い所得税・住民税・事業税率(最大60%)が適用されますが、法人化すれば法人税率は概ね30%前後に抑えられます。さらに、役員報酬や家族への給与支給を通じた所得分散により、税負担の軽減が可能です。
また、法人で賃貸事業を行えば、将来的に積み上がる賃料収入を法人内にとどめることができ、個人の相続財産が増えすぎるのを防ぐという効果もあります。収益を法人内で再投資することで、資産の増加をコントロールしながら、安定的に資産を維持・承継できます。
さらに、法人を通じて不動産を保有することで、株式評価の工夫や事業承継対策も取りやすくなるというメリットがあります。特に将来的に後継者へ不動産賃貸事業を引き継ぎたい場合、法人化は重要な選択肢となります。
ただし、設立費用や維持コスト、移転に伴う税金なども生じるため、専門家のアドバイスを受けたうえで慎重に判断することが大切です。
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法人化コンサルティング
3-6. アパートを生前贈与する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

賃貸アパートなどの収益不動産を相続前に生前贈与することは、相続税と所得税の両面で高い節税効果が期待できます。特に、賃料収入が毎年積み上がることで相続財産が増えてしまう状況を、早めの贈与で回避できる点が大きなメリットです。
また、贈与によって賃料収入が子や孫に移ることで、家族全体での所得分散が図れ、高い所得税率の適用を避けることができます。これは所得税の節税につながるとともに、受贈者にとっては安定した収入源の確保=生活基盤の支援にもなります。賃料収入は将来の相続税納税資金として活用できる点も大きな利点です。
一方で、生前贈与には移転に伴うコストが発生する点には注意が必要です。贈与税のほか、登録免許税や不動産取得税などもかかり、短期的にはまとまった支出になることもあります。節税効果と費用のバランスを踏まえて検討することが重要です。
活用できる制度(相続時精算課税制度など)を踏まえ、専門家と連携しながら戦略的に進めることが成功のポイントとなります。
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生前贈与コンサルティング
3-7. 底地・貸地を整理する
( 節税効果 ★★★・納税資金 ★★★ )

(地主と借地人とで第三者へ売却など)
底地・貸地は、収益性が低く、流動性も乏しいうえに評価や分割が難しく、“相続で揉めやすい資産”の代表格です。生前のうちに整理しておくことで、納税・分割・節税のすべての面で大きな効果が期待できます。
たとえば、底地を借地人に売却して現金化したり、借地権を買い取って所有権を一本化することで、資産の整理と同時に現金や収益不動産への転換が可能になり、相続時の納税や分割もスムーズになります。こうした手続きには、税務・法務・不動産評価などが複雑に絡むため、専門家の関与が欠かせません。
不動産コンサルティング費用などが発生しますが、これは将来的に必ず発生する費用を生前に前倒しで支払うことになるため、相続財産を減らす効果があり、相続税の節税にもつながります。
難しい資産ほど、早めに対応することでトラブル回避と節税を両立できます。専門家の力を借りながら、計画的に整理を進めることが重要です。
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借地権・底地コンサルティング
3-8. 共有名義を整理する
( 節税効果 ★★★・納税資金 ★★★ )

(共有者全員で第三者へ売却など)
不動産が共有名義になっている場合、相続対策の大きな障害となることがあります。
共有名義では、売却や建替え、賃貸などの意思決定に他の共有者の同意が必要となり、自由な活用が困難になるためです。特に、相続が発生した後に共有者がさらに増えていくと、権利関係が複雑化し、将来的に身動きが取れなくなる恐れがあります。
そのため、生前のうちに共有状態を整理しておくことは、相続後の円滑な資産管理・処分のためにも非常に重要な対策です。たとえば、他の共有者の持分を買い取ったり、逆に自分の持分を売却・贈与したりして、単独所有に近づける方法が考えられます。
また、相続税の計算においても、共有名義の不動産は評価の分け方が複雑になり、トラブルの原因となることがあります。整理にかかる費用(不動産鑑定費用、名義変更の登記費用など)を相続前に支払っておけば、相続財産の圧縮につながるため、相続税の節税効果も期待できます。
将来の紛争予防と節税の両面から、共有名義の整理は早めに検討すべきテーマです。
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3-9. 不動産鑑定評価を活用する
( 節税効果 ★★★★★ )

不動産の相続税評価は、原則として「財産評価基本通達」に基づいて行われますが、実勢価格と大きく乖離して過大評価されることがあるため、場合によっては不動産鑑定評価を活用することで、適正な評価額へ見直せる可能性があります。
特に、不整形地、傾斜地、騒音・振動のある土地、権利関係が複雑な土地などは、通達では画一的に評価されてしまい、不利な評価になることが少なくありません。そうしたケースでは、不動産鑑定士による個別鑑定を行うことで、実態に即した評価額を提示し、節税につなげられる可能性があります。
相続財産に不動産が多く含まれる場合は、生前の段階で鑑定評価の必要性をシミュレーションしておくことが望ましく、いざという時に適切な対応ができるよう備えておくべきです。
不動産鑑定評価書を活用して、相続税約3,000万円の節税に成功
生前から伴走サポートさせて頂いたお客様
現地調査や役所での確認を重ねた結果、対象地が特殊な土地であることを発見。これを踏まえ「不動産鑑定評価書」を活用することで、最終的に3,000万円の節税に成功しました。
生前から不動産鑑定を活用した場合のシミュレーションをしていたため、銀行やハウスメーカーが推薦する無駄な相続税対策を排除することができました。

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不動産鑑定評価コンサルティング
3-10. 死亡退職金と弔慰金を活用する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

不動産賃貸業を法人化し、自らが代表取締役などの役員として勤務している場合、自分の死後に同族会社から支給される「死亡退職金」や「弔慰金」も、相続税対策に有効です。これらの給付には、「500万円 × 法定相続人の数」までの非課税枠が適用され、現金での納税資金確保にも活用できます。
特に不動産中心の資産構成では、納税資金が不足しがちですが、納税資金対策として非常に有効です。さらに、会社が支給することで、法人側でも損金算入が可能となり、法人税の節税にもつながります。
ただし、生前に退職金規程や就業規則を整備しておくことが必須です。規程が曖昧だったり、社内に実態がなかったりすると、税務上で否認されるリスクもあるため注意が必要です。
同族会社を活用すれば、相続税・法人税双方の節税を同時に実現しながら、遺族の生活支援・納税資金準備まで対応できる合理的な対策となります。早めに制度設計しておくことが重要です。
地主がじっくり検討すべき相続税対策10選(要点まとめ)
| 項目 | 要点 |
| 3-1.自宅を建て替える | 親の資金で建替えれば相続税評価額を抑えられる。特例の適用や住環境改善も可能。 |
| 3-2.親族の住宅を購入する | 無償貸与(使用貸借)で支援しつつ、将来の資産移転に備える。相続人の自立支援にも。 |
| 3-3.賃貸アパートを建築する | 評価額が抑えられ、賃料収入は納税資金に。立地や収支を慎重に判断する必要あり。 |
| 3-4.都心の賃貸物件を購入する | 評価額圧縮と資産保全が狙える。不動産小口化商品も選択肢。長期的な安定性重視。 |
| 3-5.不動産賃貸業を法人化する | 所得分散・相続財産の圧縮・納税資金の確保が可能。設立・運営コストも検討材料。 |
| 3-6.アパートを生前贈与する | 相続税評価額の低いうちに贈与することで節税に。贈与時の不動産評価が鍵となる。 |
| 3-7.底地・貸地を整理する | 収益性が低く分割しにくい資産は早期整理を。交換や売却、生前の調整が有効。 |
| 3-8.共有名義を整理する | 分割や管理が困難になる共有は早期に整理。換価や単独取得でトラブル防止にも。 |
| 3-9.不動産鑑定評価を活用する | 適正な評価により、節税余地がある場合に有効。費用対効果や依頼時期の見極めが重要。 |
| 3-10.死亡退職金と弔慰金を活用する | 同族会社からの支給により非課税枠活用と納税資金確保が可能。規程整備が必須。 |

4. 地主が検討すべき一般的な相続税対策10選
ここまで見てきたように、地主の方に特有の不動産を活用した相続税対策は、所有資産の状況に応じた戦略的な検討が必要です。一方で、すべての相続人・納税者に共通して活用できる、一般的かつ制度的な相続税対策も確実に押さえておくべき重要なポイントです。
具体的には、生前贈与の活用や生命保険の非課税枠、配偶者に対する軽減措置など、国が用意している制度を適切に活用することで、大きな節税効果が見込めるものが数多く存在します。こうした対策は、比較的取り組みやすく、不動産対策と組み合わせることで、よりバランスの取れた節税設計が可能になります。
ここでは、地主の方に限らず相続に関わるすべての方が検討すべき代表的な対策を10項目に整理してご紹介します。

4-1. 遺言書を作成する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

地主の方にとって相続対策の基本かつ要となるのが「遺言書の作成」です。不動産のように分けにくい財産が多いほど、遺言があるかないかで相続の円滑さが大きく変わります。
誰にどの財産を引き継がせるのかを明確にしておくことで、“争族”を未然に防ぐことができます。
相続トラブルは、節税の最大の敵と言っても過言ではありません。
遺産分割協議がまとまらないと、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの有利な制度が適用できなくなり、結果として大きな税負担を招くリスクがあります。
遺言書は、財産の状況や家族関係の変化に応じて定期的に見直すことも大切です。特に不動産を含む場合は、形式や内容に不備があると無効になるおそれがあるため、公正証書遺言で作成するのが安全確実です。
「まだ早い」と思わず、家族の安心のためにも、一日でも早く自分の意思を形に残しておくことが、最も確実な相続対策のひとつです。
「不動産鑑定」のご依頼から「相続税1,300万円を取り戻す」お手伝いに発展
遺産分割で揉めているご兄弟の代理人弁護士から不動産鑑定のご依頼がありました。
不動産鑑定業務を進めていると、当初の相続税申告書の誤りを発見し、相続税が過払いであったことを発見しました。そこで、弁護士を通じて「兄弟協力して過払いの相続税を取り戻しませんか?」と打診したところ、激しい兄弟喧嘩中でしたが一時休戦、当事務所がご兄弟両方の税務代理人となって税務署に「当初申告で相続税が過払いだったので過払い分を返してほしい」旨の手続きを行い、当事務所の主張が認められ、相続税1,300万円を取り戻すことに成功しました。
裁判所に提出した「不動産鑑定評価書」をそのまま流用して税務署にも提出しました。ご兄弟双方から大変感謝して頂きましたが、その後、兄弟喧嘩は再開、激しさを増して調停は不調に終わりました。
この事例は、「不動産鑑定評価が相続税の節税に有効であること」と同時に、「円満な相続の実現には遺言書の作成が極めて重要であること」を示しています。
実務においては、相続をめぐるトラブルが後を絶たず、「遺言書があれば防げたのに」と感じる場面が少なくありません。 とくに多くの資産をお持ちの地主の方には、遺言書の作成を強くお勧めいたします。
4-2. 毎年110万円を贈与する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

最も基本的で取り組みやすい相続税対策の一つが、「基礎控除額内での毎年の贈与」です。
贈与税には年110万円までの基礎控除があり、この枠内であれば、誰にいくら贈与しても贈与税はかかりません。たとえば、子どもや孫に毎年110万円ずつ贈与を続けることで、将来の相続財産を確実に減らすことができ、結果として相続税の節税につながります。
この方法のメリットは、相続発生前から段階的に資産移転が進められる点にあります。
贈与する人数が多ければ、その分節税効果も大きくなります。長期的な視点で早めに始めるほど、累積の効果は大きくなります。
ただし、形式的には贈与契約書の作成や、贈与された側が管理・運用することが求められます。名義預金のように実質的に贈与と認められない場合は、税務調査で否認されるリスクもあるため、注意が必要です。
毎年の贈与は、シンプルながらも有効な対策です。確実に効果を得るためには、形式にも十分に配慮して進めましょう。
4-3. 生命保険を活用する
( 節税効果 ★★★★★・納税資金 ★★★★★ )

生命保険は、相続税対策と円満相続の両面で非常に有効な手段です。
特に注目すべきは、「500万円 × 法定相続人の数」までの死亡保険金が非課税となる制度で、現金を非課税で残すことができる点です。地主の方のように不動産に資産が偏っている場合、納税資金や分割資金として活用しやすい現金を用意できるのは大きなメリットです。
さらに生命保険は、「誰に」「いくら」渡すかを契約時に指定できるため、特定の相続人に配慮した財産配分を実現しやすく、争族予防にもつながります。たとえば、自宅を相続する長男以外の子に対して保険金で調整することで、平等感のある相続が可能になります。
ただし、保険料の支払い能力や、過度な節税目的と見なされる契約には注意が必要です。
契約者・被保険者・受取人の設定によっては贈与税が課税されることもあるため、設計は専門家と相談しながら進めましょう。
4-4. 配偶者の税額軽減を上手く活用する
( 節税効果 ★★★★★ )

配偶者は、相続税法上もっとも優遇された立場にあります。配偶者が相続する財産については、「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までは、相続税がかかりません。これを「配偶者の税額軽減」と呼び、非常に強力な節税策です。
この制度を活用すれば、不動産を多く保有する家庭でも、配偶者が相続することで相続税の負担を大幅に抑えることが可能です。また、納税資金を確保するために慌てて不動産を売却する必要もなく、生活の安定を確保しつつ、次の世代への準備期間を確保できます。
ただし注意すべきは、配偶者が相続した財産は、その後の二次相続(配偶者が亡くなった時)で課税対象となる点です。一次相続で配偶者に偏りすぎた遺産分割をしてしまうと、将来的に相続税総額が増えるケースもあります。
したがって、配偶者の税額軽減は「一次相続」と「二次相続」の両方を見据えて活用することが重要です。配偶者の生活保障を守りつつ、子や孫への分割・節税まで考えたバランスの取れた設計を心がけましょう。
4-5. 養子縁組する
( 節税効果 ★★★★ )

養子縁組は、相続税の節税に直結する対策のひとつです。
相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)、退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)などは、法定相続人の人数によって金額が増える仕組みになっています。
そこで、養子をとることで相続人の数を増やせば、これらの非課税枠が拡大し、結果として相続税額を抑えることができるのです。特に子どもが1人しかいない場合など、養子縁組による効果は大きくなります。
ただし、節税目的だけでの養子縁組には注意が必要です。税務上認められる養子の人数には制限があり、実子がいる場合は1人まで、いない場合でも2人までとされています。
養子縁組は、節税の効果が大きい一方で、相続人間の関係性にも影響を与えるデリケートな制度です。実行前には、家族間で十分に話し合い、専門家と相談しながら進めることが重要です。
4-6. 墓地など非課税資産を生前に購入する
( 節税効果 ★★★ )

相続税の対象となる財産には、現金や不動産、有価証券などさまざまなものがありますが、例外として「墓地・墓石・仏壇・仏具」などの祭祀財産は、原則として相続税の課税対象外(非課税)とされています。
そのため、生前のうちに墓地や納骨堂を購入しておくことで、現金等の課税対象資産を非課税資産に変えることができ、結果として相続税の節税につながります。また、本人の意向に沿った準備ができるため、相続人の精神的・金銭的な負担を軽減できるというメリットもあります。
ただし、実際に使用する目的で購入する必要があり、投資目的や転売目的と見なされると、非課税の適用を否認されることもあります。また、墓地の永代使用料(永代使用権)や墓石の購入費用は非課税ですが、墓地の管理費や法要費用などは非課税の対象には含まれません。
このように、生前に非課税資産へ資産を組み替えることは、手軽で確実な相続税対策のひとつです。節税効果に加えて、家族への配慮としても意義のある対策として、早めに検討しておくことをおすすめします。
4-7. 住宅取得等資金の贈与の特例を活用する
( 節税効果 ★★ )

父母や祖父母から、子や孫など直系卑属に対して住宅の取得や増改築のための資金を贈与した場合、一定の条件を満たせば、最大1,000万円まで贈与税が非課税になる制度(住宅取得等資金の贈与の特例)があります。
住宅を購入・新築・リフォームしたい子や孫の支援をしながら、相続税の節税にもつながる制度として非常に有効です。
この特例の非課税枠は、住宅の性能や契約時期によって異なり、省エネ住宅などの「質の高い住宅」の場合には、より大きな非課税枠が適用されます。また、基礎控除110万円との併用も可能です。
ただし、贈与を受ける側の年齢・所得や、住宅の床面積・取得方法など、いくつかの条件があります。要件を満たさなければ、贈与税がかかることになるため、事前の確認と申告が重要です。
この特例は、現金を効率よく次世代に移転する手段であり、相続財産の圧縮につながるとともに、家族の生活基盤を支援できる点でも効果的です。活用する際は、制度の適用期限や条件に注意し、早めの計画を心がけましょう。
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
4-8. 教育資金の一括贈与の特例を活用する
( 節税効果 ★★ )

「教育資金の一括贈与の特例」は、父母や祖父母が子や孫に対して、教育に使う目的で資金を贈与した場合、最大1,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。塾代や学費、入学金、留学費用など、対象となる支出の範囲は広く、実質的に資産を非課税で次世代に移すことが可能です。
この制度の特徴は、贈与時点で一括して資金を渡せることに加え、金融機関を通じた管理により制度の透明性が保たれる点です。教育目的であれば、幼稚園から大学、さらには予備校・習い事に至るまで対象とされ、子や孫の将来への支援と節税を両立できる手段として注目されています。
ただし、制度には年齢や期限の制限があります。受贈者が30歳(条件により33歳)に達した時点で使いきれなかった残額は、相続税または贈与税の対象になるため、使い切る見通しも重要です。
教育資金は必要性も高く使途も明確であることから、相続対策の中でも家族の理解を得やすく、トラブルを防ぎやすい方法です。制度の期限にも注意しながら、早めの活用を検討しましょう。
No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
4-9. 結婚・子育て資金の一括贈与の特例を活用する
( 節税効果 ★ )

「結婚・子育て資金の一括贈与の特例」は、父母や祖父母が20歳以上50歳未満の子や孫に対して、結婚や出産・育児のための資金を一括で贈与する場合、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。結婚にかかる挙式費用や新居の賃貸料、不妊治療費、ベビーシッター費用、保育料など、幅広い支出が対象となります。
この制度は、次世代の生活支援と資産の早期移転を同時に実現できる点で、相続税対策の一環として有効です。特に、子や孫が結婚・出産を控えている時期に活用すれば、実際の支出に直結する支援として喜ばれるうえ、相続財産の圧縮にもつながります。
ただし、教育資金の特例と同様に、金融機関の専用口座を通じた管理が必要であり、対象期間終了後の残額には贈与税がかかる点に注意が必要です。
制度の適用には年齢や申請期限などの要件があるため、事前に制度内容をよく確認する必要があります。結婚や子育てといった人生の節目に合わせた相続対策として、円満な資産承継にもつながる活用価値の高い制度です。
No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
4-10. 配偶者に居住用不動産を贈与する
( 節税効果 ★ )

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する場合、最大2,000万円まで贈与税が非課税となる特例(いわゆる「おしどり贈与」)があります。これに110万円の基礎控除を加えると、合計2,110万円まで非課税で配偶者に資産を移転でき、相続財産の圧縮に繋がる可能性があります。この制度は、生前贈与として使える数少ない大きな非課税枠であり、感謝の気持ちを形にしつつ、配偶者の安心や老後の生活基盤を整える点でも有効です。
ただし注意すべきは、配偶者が相続する際には「配偶者の税額軽減」によって、1億6,000万円または法定相続分までは相続税がかからないという強力な特例があることです。そのため、配偶者に生前贈与しても、結果的に相続の時点で非課税になる場合が多く、生前贈与による節税メリットがないこともあります。
この制度は“心の贈与”としての側面が強く、節税効果を期待する場合には、相続と贈与の両面から慎重なシミュレーションが必要です。
No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
地主が検討すべき一般的な相続税対策10選(要点まとめ)
| 項目 | 要点 |
| 4-1.遺言書を作成する | 地主の方にとって相続対策の基本かつ要、“争族”を未然に防ぐことができる。 |
| 4-2.毎年110万円を贈与する | 贈与税の基礎控除を活用。毎年コツコツ贈与することで資産を圧縮できる。 |
| 4-3.生命保険を活用する | 非課税枠(500万円×法定相続人)を利用し、納税資金確保と節税が可能。 |
| 4-4.配偶者の税額軽減を上手く活用する | 配偶者への相続は大幅に税額軽減。分割割合を工夫すれば節税に繋がる。 |
| 4-5.養子縁組する | 法定相続人を増やすことで基礎控除や保険・退職金の非課税枠が拡大。 |
| 4-6.墓地など非課税資産を生前に購入する | 墓地や仏壇などは非課税資産。生前に準備しておけば安心かつ節税に。 |
| 4-7.住宅取得等資金の贈与の特例を活用する | 子や孫への住宅資金援助で非課税贈与が可能。期間・条件に注意。 |
| 4-8.教育資金の一括贈与の特例を活用する | 一定額まで非課税で教育資金を贈与可能。信託型が主流。用途制限あり。 |
| 4-9.結婚・子育て資金の一括贈与の特例を活用する | 一定条件下で非課税贈与が可能。制度の期限に注意。 |
| 4-10.死亡退職金と弔慰金を活用する | 会社から支給される退職金・弔慰金に非課税枠あり。事前の準備が重要。 |

5. まとめ
相続税対策は、思いついたときに単発で行うものではなく、全体像を見据えた設計が重要です。
特に不動産を多く所有する地主の方は、資産の評価額が大きくなる傾向があるため、早めの準備と実行が将来の安心につながります。
本記事で紹介した30の対策は、実務に基づいた実践的な内容ばかりです。
すぐにできるもの、検討に時間が必要なもの、専門家のサポートが不可欠なものなど、それぞれの特性を理解し、自分に合った組み合わせで進めることが効果的です。
また、相続対策の目的は節税だけではありません。
「揉めない」「困らない」「損しない」相続のために、家族や専門家と連携しながら、計画的に取り組んでいきましょう。

相続税対策のお手伝い
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