不動産鑑定とは?査定との違い・必要性が高い2つの場面を詳しく解説

「不動産鑑定って何?」
「査定との違いは?」
「どんなときに必要なの?」

不動産鑑定について、よく知らないという方は思いのほか多いのではないでしょうか。

じつは、私たちの経験上、お客様のご相談を詳しくお伺いすると、そもそも不動産鑑定が必要ないケースは意外に多いと感じています。

たしかに、不動産鑑定士が提供する不動産鑑定評価は、特に「節税」や「紛争解決」の場面で力を発揮します。
しかし、必ずしも費用をかけてまで不動産鑑定を依頼する必要が無い場合もあります。

ここでは、不動産鑑定を詳しく知ってもらい、不動産鑑定士の選び方、さらに費用対効果の考え方について詳しく解説します。

この記事を読み終えていただければ、不動産鑑定の必要性や費用相場、そして、不動産鑑定を依頼すべきかどうかを見極められるようになります。ぜひ最後までお読みください!

・ 不動産鑑定の基礎知識
・ 不動産鑑定の必要性が高い2つの場面
・ 不動産鑑定のホントの費用相場
・ 費用をかけてでも不動産鑑定を依頼すべきか?
・ 不動産鑑定士を選ぶ際のポイント
・ 費用対効果に見合わないなら、無料の代替手段

執筆者:古林国博
古林 不動産鑑定士・税理士・公認会計士事務所 代表
不動産オーナー様が抱える「節税・相続・不動産経営」などのお悩みをまるごと解決へと導くお手伝いを行っています。
飛込み営業で鍛えられた「親しみやすさ」と不動産と相続に特化した「高い専門性」でサポートいたします。
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1.不動産鑑定の基礎知識

1-1. 不動産鑑定とは?

不動産鑑定評価は、以下のように定義されています。

「不動産の鑑定評価に関する法律」第2条第1項

この法律において「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。

もう少しわかりやすく言い換えると、以下のようになります。

「不動産鑑定評価とは、法律で定められた厳格なルールに基づき、不動産の経済的な価値を評価し、その結果を鑑定評価額として示すこと」

1-2. 不動産鑑定士のみが行うことができる

不動産鑑定評価は、国家資格者である不動産鑑定士のみが行える独占業務です。

具体的には、不動産鑑定士が鑑定評価額を表示した不動産鑑定評価書を作成・発行します。

不動産鑑定評価書は、概ね20~30ページ程度のことが多いですが、多い場合には100ページを超えることもあります。

不動産鑑定評価は、「不動産の鑑定評価に関する法律」に基づいて行われるため、専門的な知識と厳密なルールの遵守が求められます。

この法律は、不動産の価値を公正かつ透明に評価するための詳細なルールを設定しており、不動産鑑定士はこれに従い慎重に作業を進めなければなりません。

不動産鑑定評価は、安易に行えるものではなく、高い専門性と責任が伴う業務なのです。

不動産鑑定士は、不動産に関する法規制や経済状況、土地や建物の特徴、地域の市場動向など、多岐にわたる要素を総合的に分析し、公正な評価を行います。

1-3. 不動産査定との違い

「不動産査定」とは、一般的に、不動産会社が不動産を売却するときに、「だいたいこれくらいで売れますよ」と不動産の売却見込額を見積もることです。

不動産査定は、法律的な裏付けがあるわけではありません。

ルールがあるわけでもなく、無資格者でも誰でも行うことができます。

そのため、その査定額にはだれも責任を負ってくれませんし、公的な証明力もありません。

不動産査定の最大のメリットは、費用が発生しないため気軽に依頼できる点です。

しかし、次のようなデメリットがあるので、トラブルにならないように注意が必要です。

評価の信頼性に欠ける
簡易な査定であるため、細かな要因を考慮しない場合があり、信頼性が高い評価を求める場合には、不十分な場合があります。

営業目的
不動産の売却を促すための営業活動の一環であるため、しつこい営業が入ることがあります。

まとめ

 不動産鑑定不動産査定
法律不動産の鑑定評価に関する法律なし
できる人不動産鑑定士(国家資格者)のみ誰でもできる(無資格者)
責任重いなし
公的な証明力強いなし
費用有料無料

故人のお客様にとって「不動産鑑定」と「不動産査定」の最も大きな違いは、有料か無料かの違いと言ってよいでしょう。

有料か無料かは非常に大きな違いなので、どちらを依頼するかは、その依頼する目的や状況によって見極める必要があるでしょう。

2. 不動産鑑定が必要な2つの場面

私たちの事務所では、「節税」と「紛争解決」の2つの場合について、不動産鑑定を依頼すべきと考えています。

これらのケースでは、費用をかけてでも不動産鑑定を依頼したほうが、お客様にとってお得なことが多いと考えられるからです。

ただし、「節税」と「紛争解決」の場合であっても、費用対効果に見合わない場合には、他の無料の代替手段で事足りることも多いので、その見極めが重要になってきます。

2-1. 「節税」が目的の場合

不動産鑑定は、節税に大きく貢献できる場合があります。

私たちの事務所では、節税効果が鑑定費用を大きく上回る可能性があれば、積極的に活用することを推奨しています。

1,000万円の節税ができるなら、100万円の費用をかけても不動産鑑定を活用したほうが、お客様にとってはお得になります。

ただし、税務署も厳しくチェックしますので、費用対効果やリスクなどを慎重に見極める必要があります。

  • 相続税の申告

相続税を申告するときに、不動産を過大評価してしまうと、相続税を払い過ぎてしまうことになります。
じつは、結構な頻度で、相続税を払い過ぎてしまっているケースは発生しています。
残念ながら、払い過ぎても税務署は教えてくれません。
不動産の相続税は大きな金額になりがちですので、納税者としてはたまったものではありません。
現状では、相続税の申告の場面では、不動産鑑定を活用できるのは特殊な不動産に限られます。
特殊な不動産がある場合には、不動産鑑定の活用を検討すると良いでしょう。

  • 相続税の還付

仮に、相続税を払い過ぎてしまったとしても、相続税の申告期限から5年以内であれば、相続税を取り戻すことができます。
不動産鑑定を活用して相続税を取り戻すことは、極めて難易度の高い作業となりますので、費用も大きくなりがちです。
しかし、相続税を取り戻せなければ費用は掛からない成功報酬の場合もあります。
特殊な不動産がある場合には、不動産鑑定の活用を検討すると良いでしょう。

  • 同族間売買

不動産の同族間売買では、売買価格が恣意的に決められることが多いため、税務署は厳しくチェックします。
売買価格が時価とかけ離れていると、税務署から「不当な売買価格だ」として思わぬ税金が課されるリスクがあります。
不動産鑑定を活用することで、適正価格であることを証明でき、課税リスクを低減できます。
また、大きな節税効果を生み出す可能性もあります。

  • 不動産の交換

不動産の交換の場合には、固定資産の交換特例を適用できれば、税金の負担が大幅に軽減されます。
当然のこととして、税務署は適正な価格で交換がされているのか厳しくチェックします。
不動産鑑定を活用することで、適正価格であることを証明でき、課税リスクを低減できます。
不動産鑑定によって、交換特例の適用要件を満たせれば、大きな節税効果を期待できます。

  • 土地・建物の比率

不動産取引においては、土地建物全体の売買価格のみで取引されることも多くあります。
このような場合には、固定資産税評価額の土地建物の比率で案分して、土地と建物の価格を算出するのが一般的です。
土地と建物の価格は、所得税や法人税、消費税などの税金に影響するため、適正に配分される必要があります。
しかし、固定資産税評価額の比率が適正比率とかい離している場合も多いのが実情です。
不動産鑑定を活用することで、適正な比率で土地と建物の価格を算出できます。
また、大きな節税効果を期待できる場合もあります。

2-2. 「紛争解決」が目的の場合

不動産鑑定は、不動産トラブルの解決に重要な役割を果たすことができます。

相続や離婚などをきっかけに、利害対立が発生するとなかなか大変です。

不動産鑑定によって、公平で客観的な評価を提供することで、当事者間の対立を和らげる助けとなります。

話し合いや交渉がスムーズに進み、裁判外の解決が促進される場合もあります。

不動産鑑定評価書は裁判においても証拠として使用でき、公正な判断を下すための基盤を提供します

このように、不動産鑑定は紛争の迅速かつ適切な解決に貢献する重要な専門的手法です。

  • 遺産分割協議

円満な遺産分割のためには、それぞれの不動産の本当の価値を知る必要があります。
相続税評価額を前提に遺産分割案を立てると、後で本当の価値と乖離があった場合にトラブルになり、収拾が付かなくなる恐れもあります。
遺産に含まれる不動産の評価を巡って相続人間で意見が対立する場合には、専門家による不動産鑑定が公正な基準となり、無用な争いを回避できます。
不動産鑑定評価書は裁判所での証拠にもなり、遺産分割調停や訴訟においても有効な資料となります。
このように、不動産鑑定は、円滑かつ公平な遺産分割に大きく貢献します。

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  • 借地の権利調整

借地の権利調整において、不動産鑑定は借地権や底地の市場価値を正確に評価することで大きく貢献します。
これにより、権利金や地代の妥当性を判断し、地主と借地人の間で公正な交渉を可能にします。
また、借地権の更新や譲渡、返還時に鑑定結果が客観的な基準として活用され、トラブルの回避やスムーズな権利調整を支援します。
不動産鑑定は、双方にとって納得のいく解決を促進する重要な役割を担っています。

  • 共有名義の解消

不動産の共有名義の解消において、不動産鑑定は共有者間の公平な取引や分割をサポートします。
不動産全体や各共有者の持分の市場価値を正確に評価し、持分の売却や相続時の適正な分割を可能にします。
また、共有者間での意見対立を防ぎ、公正な基準に基づいた解決を促進します。
さらに、共有不動産の売却時にも、適切な価格設定を支援し、全員が納得できる取引を実現するための重要な役割を果たします。

  • 賃料の交渉

地代や家賃の賃料交渉において、不動産鑑定は適正な賃料を設定するための基準を提供します。
市場データや物件の特性を分析し、公正な賃料を算出することで、貸主と借主が納得できる条件での交渉をサポートします。
また、賃料改定や更新時にも鑑定結果を基に冷静な交渉が進められ、トラブルの予防に貢献します。
不動産鑑定は、賃料交渉の透明性を高め、公平な解決を促進する役割を担っています。

  • 財産分与

財産分与において、不動産鑑定は公平な分割を実現するために重要な役割を果たします。
不動産の市場価値を客観的に評価し、その評価に基づいて不動産の分割や現金での清算方法を提案します。
特に、共有名義やローンが残る不動産に対しても適切な価値を提供し、当事者間での対立を回避し、公平な解決をサポートします。
鑑定結果は、裁判や調停における有力な証拠としても利用され、スムーズな財産分与に貢献します。

3. 不動産鑑定の料金相場

私たちの事務所では、依頼する目的が「節税」や「紛争解決」の場合には、費用対効果を考慮しつつ、不動産鑑定を活用することをお勧めしています。

この記事をご覧の方のなかには、税理士さんや弁護士さんから「不動産鑑定士に依頼して不動産鑑定評価書を取ってください」と勧められた方もいらっしゃると思います。
不動産のお悩みを抱えていて、ご自身でいろいろと調べて「不動産鑑定評価書が必要だ」と考えた方もいらっしゃるでしょう。

しかし、私たちの経験上、お客様のご相談を詳しくお伺いすると、そもそも不動産鑑定が必要ないケースは意外に多いと感じています。

私たちの事務所では、「節税」「紛争解決」を目的とする場合であっても、事前に費用対効果に見合わないと判断される場合には、お客様に「費用をかけて不動産鑑定評価のご依頼を頂くのはもったいないですよ、代替の方法で十分ですよ」とご案内しています。

3-1. 一般的な不動産鑑定の料金相場

不動産鑑定評価の費用は、一般的に20~50万円くらいとされていることが多いようです。

不動産の種類(土地のみ、土地と建物、マンションなど)や、その評価額によって、料金が変動する料金表を作成している事務所も多く見受けられます。

また、最低料金:「土地のみ:20万円~」のような表記にしている事務所も多いようです。

不動産の種類費用相場
土地のみ20万円~
土地と建物(戸建住宅など)25万円~
マンション30万円~

各事務所は独自のルールで料金設定しています。

高品質を売りにするところもあれば、低価格路線のところもあって、事務所によって様々です。

3-2. 簡易版の不動産鑑定

鑑定業界では、利害関係者に正式な鑑定評価と同等のものという誤解を与えるとの理由から「簡易鑑定」という言葉は使われなくなっています。

一般的には「費用を抑えた簡易的な不動産鑑定評価」という意味合いで使われていると思います。

どこまで簡易的にするかにもよりますが、「不動産価格等調査報告書」などといった名称が使われることが多いでしょう。

「不動産価格等調査報告書」などは、不動産鑑定評価と比べて簡易的であるとはいっても、不動産鑑定士が行う業務として厳格なルールが定められており、ご依頼内容によっては発行できないケースもあります。

また、厳格なルールに基づいて必要な手順を経る必要があり、不動産鑑定士の業務量はそれほど抑えられないため、思いのほか費用も安くなりません。

概ね正式な不動産鑑定評価の70~80%の費用がかかることが多いでしょう。

3-3. 「節税」「紛争解決」の場合の料金相場

  • 節税

「節税」の場合の料金相場は、一般的に言われている料金の1.2~1.5倍くらい(25~75万円)と考えたほうが良いと思います。

不動産の種類費用相場
土地のみ25万円~
土地と建物(戸建住宅など)30万円~
マンション35万円~

相続税に関する不動産鑑定評価の場合には、不動産鑑定評価を適用できる場合は非常に限られており、かなり特殊な不動産の評価になるケースが殆どのため、割増料金になるケースが多いでしょう。

  • 紛争解決

「紛争解決」の場合の料金相場は、一般的に言われている料金の1.5~2倍くらい(30~100万円)と考えたほうが良いと思います。

不動産の種類費用相場
土地のみ30万円~
土地と建物(戸建住宅など)40万円~
マンション50万円~

不動産鑑定評価書が裁判所へ提出される場合、トラブルの相手方も不動産鑑定士に依頼して相手方に有利な不動産鑑定評価書が裁判所に提出されることが多いと思います。
不動産鑑定評価書が裁判の行方を左右しますので、不動産鑑定士としても責任重大です。

裁判所では、お互いの不動産鑑定評価書を詳細にチェックします。
裁判所や相手方から質問事項が届けば、不動産鑑定士としても対応しなければなりません。

個別事情にもよりますが、紛争解決の裁判案件が最も高い料金になると考えて良いでしょう。

一般的な不動産鑑定の場合には、不動産鑑定士としては不動産鑑定評価書を作成、提出して業務完了となります。

しかし、「節税」「紛争解決」の場合には、提出して業務完了とはならない場合も多く、時間や労力は何倍もかかる場合もあります

お客様の「節税」「紛争解決」という目的が達成されるかどうかは、不動産鑑定評価書にかかっています。
税務署や裁判所を納得させるだけの説得力を持った内容まで、不動産鑑定評価書を作り込む必要があります。

それだけ時間もコストもかかるため、費用が高くなるのは当然といえば当然なのです。

参考までに、私たちの事務所の料金表を紹介します。
税務や不動産のアドバイスなどの強みを活かして、高品質を保つ料金設定としています。

古林 不動産鑑定士・税理士・公認会計士事務所「不動産鑑定(料金表)」のご案内

4. 費用をかけてでも不動産鑑定を依頼すべきか?

残念ながら「安かろう悪かろう」「安物買いの銭失い」は世の常です。

質の低い不動産鑑定評価書では、税務署から否認されてしまうことになりかねませんし、裁判や調停で不利になってしまうかもしれません。

その結果、節税できないだけでなく、余計なペナルティを負担させられるかもしれません。
思うようなトラブル解決の目的が果たせなくなってしまうかもしれません。

「節税」や「紛争解決」の場合には、十分な費用をかけて、その目的達成を第一に考えることをお勧めします

ただし、代替手段でも十分その目的が達成できる場合には、費用をかけて不動産鑑定を依頼する必要はありません

ここでは、「費用をかけてでも不動産鑑定を依頼すべきか?」の見極め方を解説します。

4-1. 「節税」の場合

4-1-1. 費用対効果で考えるフローチャート

個別事情などによって、不動産鑑定を依頼すべきか否か判断が異なってきます。

フローチャートは、あくまで一般的な判断基準とお考えください。

不動産鑑定評価は、相続税や法人税、所得税、消費税の節税に非常に有効です。

特に高額な不動産を保有する場合や複雑な資産状況にある場合には、不動産鑑定士による正式な不動産鑑定が不可欠な場合が多いでしょう。

ただし、鑑定費用がかかるため、その費用と節税効果のバランスを見極め、費用対効果を考慮して依頼するかどうかを慎重に判断することが重要です。

対象不動産の状況にもよりますが、評価額が小さい場合など、簡易版の不動産鑑定で対応できる場合も多いでしょう。

4-1-2. 不動産鑑定を依頼する判断ポイント

不動産鑑定を依頼する際、結構な費用がかかります。

鑑定費用は物件の規模や複雑さによって異なりますが、その鑑定費用を上回る節税効果が得られるかどうかを判断することが重要です。

節税効果が大きければ、鑑定費用は必要経費として見なすべきでしょう。

  • 事前に費用対効果の検討する

鑑定費用は決して無視できるコストではありませんが、適切な評価によって税負担が減少する場合、その効果は非常に大きくなります。
たとえば、数百万円単位で税金が減少する可能性がある場合、鑑定費用が数十万円であれば費用対効果は非常に高いといえます。
このように、鑑定費用と予想される節税効果を比較し、費用対効果をしっかりと予測することが大切です。
まずは、節税効果がどれくらい見込めるのか、税務リスクは高いのか低いのか等について、担当の税理士さんとよく検討されることをお勧めします。

  • 大きな資産を持つ場合ほど効果が高い

特に大規模な不動産を保有している場合や、複雑な権利関係が絡む不動産では、評価額に大きな幅が生じる可能性があるため、不動産鑑定士による不動産鑑定が節税効果を最大限に発揮します。
高額な不動産ほど、わずかな評価額の違いが税額に大きく影響を与えるため、鑑定費用を投じる価値が大きいといえます。

  • 税務署とのトラブル防止

正式な不動産鑑定評価は、最も信頼性の高い時価評価額のため、後々の税務調査や追加課税リスクを軽減できます
これにより、余計なコストやストレスを避けることができるため、長期的な費用対効果も考慮する必要があります。

「節税」の場合の不動産鑑定は、税務署との関係で否認されるリスクを伴います。

国税庁に所属する不動産鑑定士が詳細にチェックするため、依頼を受けた不動産鑑定士も慎重にならざるを得ません。

税務署から質問事項が届けば対応しなければならず、不動産鑑定士にとって鑑定評価書を提出して業務完了とはいかないのです。

その分、鑑定費用は割増しとなる場合も多いでしょう。

4-2. 「紛争解決」の場合

4-2-1. 費用対効果で考えるフローチャート

個別事情などによって、不動産鑑定を依頼すべきか否か判断が異なってきます。
フローチャートは、あくまで一般的な判断基準とお考えください。

トラブルの初期には費用をかけず代替手段で対応し、紛争がそれで終結に向かえばよし、紛争が激しくなってくれば、その段階で不動産鑑定を依頼することも考えられます。

最終的に裁判になることを見据えて、最初から正式な不動産鑑定が必要と判断されることもあるでしょう。

4-2-2. 不動産鑑定を依頼する判断ポイント

  • 事前に費用対効果を検討する

まずは、その不動産の価値を考慮して、費用対効果を検討していただくことをお勧めします。
感情的な対立が激しい場合には、お客様の中には費用対効果を全く顧みない決定をされる方もいらっしゃいます。
訴訟案件ともなると、高額な弁護士費用に加えて、不動産鑑定士の報酬も大きくなりがちです。
相手方の出方にもよりますが、代替案で対応できるケースもありますので、担当の弁護士さんとよく検討されることをお勧めします

  • 資産価値の大きくない不動産の場合には「不動産査定」で十分

特に大規模な不動産や複雑な権利関係が絡む不動産では、評価額に大きな幅が生じる可能性があるため、不動産鑑定士による不動産鑑定が不可欠なことが多いでしょう。
逆に、一般的な戸建住宅やマンションなどで評価額に大きな幅が生じない場合には、無料の不動産査定で十分なことも多いでしょう。

  • 鑑定費用をケチるのは得策ではない

不動産鑑定士の仕事は、国や自治体などの公的機関からの仕事が大半を占めています。
不動産鑑定士の中には、個人のお客様のご依頼を受け付けないところもあります。
実際に訴訟案件は受けないと言っている不動産鑑定士もいます。
不動産鑑定士の側からすると、無理に「紛争解決」のような大変な仕事を安い報酬でやりたくないという裏事情が見え隠れします。
不動産鑑定士の立場を代弁するわけではありませんが、とくに訴訟案件の場合には、あまり鑑定費用をケチるのは得策ではないと思います。

5.「節税」「紛争解決」のために依頼すべき不動産鑑定士の選び方

不動産鑑定は、国家資格者である不動産鑑定士のみが行うことができます。

「節税」「紛争解決」という目的を達成するためには、税務署や裁判所を納得させるだけの説得力を持った内容まで、不動産鑑定評価書を作り込む必要があります。

そこで、「節税」「紛争解決」という目的を達成できるだけの専門性を持った不動産鑑定士を選ぶことが重要です。

5-1. 不動産鑑定士の専門分野を検討する

  • 節税

不動産鑑定士にも得意分野があります。
公的評価(地価公示、路線価など)を得意としている不動産鑑定士もいれば、税理士事務所のサポートを専門にしている不動産鑑定士もいます。
節税目的、特に相続税の不動産鑑定の場合には、一般的な鑑定評価にはない注意点もあるため、出来れば税理士を専門にサポートしている不動産鑑定士に依頼することをお勧めします

  • 紛争解決

不動産鑑定士の中には、「出来れば訴訟案件は避けたい」と思っている不動産鑑定士は少なくありません。
実際に訴訟案件は受けないと言っている不動産鑑定士もいます。
訴訟案件は、不動産鑑定士にとってもそれだけ大変な仕事と言えます。
ですので、訴訟案件の実績の多い不動産鑑定士を選ぶことをお勧めします

5-2. アフターフォローは充実しているか

  • 節税

節税目的の不動産鑑定の場合には、一般的な鑑定評価とは違って、鑑定評価書を提出して完了ではありません。
その後に税務調査がある場合には、その不動産鑑定評価書の妥当性について税務当局と争いになるかもしれません。
このような場合に、担当の税理士さんと一緒になって対応してくれる不動産鑑定士を選ぶ必要があるでしょう。

  • 紛争解決

紛争解決の場合、どうしても時間がかかります。
その長い期間にわたって、サポートしてくれる不動産鑑定士に依頼することをお勧めします。
見積を依頼する場合には、アフターフォローまで含めた金額なのか、その後の意見書等の費用は別途必要なのか、確認すると良いでしょう。
不動産鑑定士の仕事は、基本的に不動産鑑定評価書を提出して終わりであることが通常です。
その後のアフターフォローまで含めた料金であれば、当然その分費用も高くなることを理解しておくと、後々のトラブルも防ぐことができます。

5-3. 不動産コンサルティングも検討する

不動産鑑定士の中には、「宅地建物取引士」資格を持っていて、不動産コンサルティングを得意としている不動産鑑定士もいます。

不動産の売却、借地問題、共有名義など不動産のお悩み事がある場合には、不動産鑑定評価以外にも包括的に対応できる不動産鑑定士をお勧めします

6.無料の代替手段

不動産鑑定の代替手段としては、次の2つが考えられます。

  • 不動産会社の無料査定を活用する
  • 公的情報から自分で調べる

なお、「節税」の場合には、これらの方法による評価額は、不動産鑑定士による不動産鑑定評価額と比べて、その評価額の信頼性が劣るため、税務署から否認されるリスクは高まるので注意が必要です

「紛争解決」の場合には、相手方の合意を得られるのであれば、これらの方法による評価額でも問題ありません

6-1. 不動産会社の無料査定

費用が発生しないため気軽に依頼でき、不動産の大まかな価値を知ることができます。

不動産会社によって金額にバラツキが出るので、2~3社程度に依頼すると良いでしょう。

しかし、次のようなデメリットがあるので、トラブルにならないように注意が必要です。

  • 無料査定のデメリット

評価の信頼性に欠ける
簡易な査定であるため、細かな要因を考慮しない場合があり、信頼性が高い評価を求める場合には、不十分な場合があります。

営業目的
不動産の売却を促すための営業活動の一環であるため、しつこい営業が入ることがあります。

  • 「節税」の場合の注意点

不動産鑑定士が行う鑑定評価は、法律に基づいており、税務署にも通用する信頼性の高いものです。
一方、不動産会社の無料査定は、非公式で公的な裏付けのない価格に過ぎません。
したがって、不動産会社の無料査定では、税務署は受け入れないか、異議を唱えられるリスクが高まるため、参考程度にとどめましょう。

6-2. 公的情報から自分で調べる

  • 「地価公示」
  • 「都道府県地価調査」
  • 「相続税路線価」
  • 「固定資産税路線価」

これらは、各監督官庁から委嘱を受けた不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行って算出した鑑定評価額を基に決定されています。

これらの公的情報から、自分で概算価格を算定することができます。

ただし、地域によっては、情報が不十分で価格算定が難しい場合や、実勢価格と乖離してしまう場合があるので、注意が必要です。

  • 「節税」の場合の注意点

公的情報を基に算定される評価額のため、実勢価格とのかい離が大きくない場合には、税務署も認めてくれる可能性は十分あるでしょう。

資産価値の大きくない不動産に適用することが想定されます。

具体的な方法は、以下の関連記事「自分でできる不動産の評価!調べ方と計算方法を不動産鑑定士が解説」をご覧ください。

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7.まとめ

  • 個人のお客様にとって、不動産鑑定が必要になるのは、「節税」と「紛争解決」のケースです。
  • 費用相場は、「節税」のケースでは、25~75万円(一般的に言われている相場の1.2~1.5倍くらい)はかかるでしょう。
  • 費用相場は、「紛争解決」のケースでは、30~100万円(一般的に言われている相場の1.5~2倍くらい)はかかるでしょう。
  • 「節税」「紛争解決」という目的を達成するためには、税務署や裁判所を納得させるだけの高品質な不動産鑑定評価書が必要です。
  • 「節税効果」「紛争解決の結果」と鑑定費用との費用対効果を見極めましょう。
  • 費用対効果に見合わない場合には、代替手段で対応しましょう。
  • 不動産鑑定士を選ぶにあたっては、「節税」「紛争解決」という目的を達成できるように、専門性や実績で選ぶと良いでしょう。

参考までに、私たちの事務所の料金表を紹介します。
税務や不動産のアドバイスなどの強みを活かして、高品質を保つ料金設定としています。

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